
前回の続き・・・。
舌がんの手術は舌にできた腫瘍そのものだけを除去することだけではない。
以下がそれらに伴う手術である。
( 2 ) 頸部郭清術
頸部郭清術は、頸部(首)のリンパ節への転移がある場合に、転移のあるリンパ節を周囲の組織ごと手術で取り除く方法である。
“がん”の状態によって取り除く範囲が異なる。
周辺の血管や神経をできるだけ残すように手術するが、“がん”の状態によってはそれらを残すことができないこともある。
リンパ節への転移が明らかでなくても、その可能性が高いと判断された場合には、予防的に頸部郭清術を行うこともある(予防的頸部郭清術)。
この Blog を書いている時点では、私の手術は終わっているので、この手術が行われたかどうかは分かってい
るのだが、ここでは結果は書かずにおく。
( 3 ) 舌の再建手術
切除した舌の範囲によっては、手術で失った部分の舌の形を新たにつくり直す「再建手術」も必要となる。
再建手術では、患者自身の太ももや、おなか、胸、腕などから採取した皮膚や脂肪、筋肉などの組織を移植し、残った舌ができるだけ機能するように再建する。
( 4 )あごの骨の手術
舌がんがあごの骨(下顎骨)に及んでいる場合は、下顎骨の切除が必要となる。
切除する範囲によっては、食事をかむ機能を保つために、骨を移植したり、金属のプレートを用いて下顎骨を再建したりすることがある。
ここまでが、舌がんの手術についてである。
次に、手術による合併症や後遺症などが気になるところである。
2⃣ 手術の合併症
手術の方法や頸部郭清術の範囲によって、起こりうる合併症は異なる。
( 1 ) 舌切除術の合併症
手術により舌を切除すると、ものを食べたり、飲み込んだり、発音したりする機能が低下することがある。
このような機能への影響は、手術で舌をどのくらい切除したかによって異なる。
切除した範囲が小さい場合は、舌の基本的な機能は保たれることが多いが、切除した範囲が大きい場合は、舌の機能低下が避けられない。
特に、飲み込む機能が低下すると、飲食物が食道ではなく気管に入ってしまう誤嚥ごえんを起こしやすくなる。
舌の機能低下を最小限に抑え、誤嚥性肺炎のリスクをさげるためには、リハビリテーションを早くから行うことと口の中を清潔に保つことが大切となる。
また、舌の半分以上を切除する手術(舌半側切除術、舌亜全摘出術/舌全摘出術)の後は、誤嚥性肺炎やむくみによる窒息を予防するために、一時的に気管切開(気管に穴をあけて空気の通り道をつくる処置)をすることがある。
また、口から十分な栄養を取れるようになるまでは、胃ろう(おなかの皮膚から胃へ管を通す穴)をつくり、直
接栄養を注入する「胃ろう栄養」を行うこともある。☞ 後で詳しく解説する
( 2 ) 頸部郭清術の合併症
頸部郭清術の際は、リンパ節だけでなく周囲の血管や筋肉、神経を切除することがあるため、術後に、顔のむくみ、頸部のこわばり、肩の運動障害などの後遺症が起こり得る。
このような症状を軽減するためリハビリテーションを行うこともある。
なお、左右の頸部郭清術を行う場合には、手術によるむくみの影響で気道が閉塞することがある。
気道が閉塞することによる窒息を予防するため、気管切開を行うこともある。
3⃣ 支持療法
支持療法は、がん治療(手術・放射線治療・薬物療法)で起こる副作用の予防や緩和を目的に、医師や看護師などのさまざまな専門家が連携して行う治療である。
舌がんの支持療法には、口の中の清潔を保つ、栄養状態の維持・改善、気道確保のための気管切開などがある。
1 ) 口の中の清潔を保つ
手術・放射線治療・薬物療法などすべての治療において、感染症などの合併症を予防・軽減するために、口の中の清潔を保つことは大切である。
ケアの方法は、まずは担当医に尋ね、必要に応じて、歯科医師や歯科衛生士、言語聴覚士、看護師などにもケアについて相談することができる。
また、重い虫歯や歯周病は、“がん”治療の前に抜歯をするなど応急処置を行うことがある。
治療が始まる前だけでなく、終わった後も定期的に歯科医の診察を受けて、口の中の清潔を保つためにケアを続けまる必要がある。
2 ) 栄養状態を維持・改善する
治療を受けるための体力を維持したり、感染症などの合併症を防ぐために、治療の前から栄養状態をよくすることが大切である。
舌がんでは、病気の影響や治療の合併症などで、食事を口からとることが難しいという状況もよく起こる。
そのような場合は、無理せず担当医や看護師に相談することが大切である。
また、食事の内容や工夫について、栄養士から栄養指導を受けることも可能である。
食事に気をつけていても十分な量が摂取できず体力が落ちることや、体の状態を保つために必要な薬を飲むことができなくなる場合がある。
このような場合には、一時的に胃ろうをつくることが勧められる。

口から食べたり、薬を飲むことが難しくても、胃ろうから直接栄養や薬剤をとることができる。
胃ろうは、内視鏡や X 線を使って、おなかの中を確認しながらつくる。
口から十分に栄養が取れるようになったら、胃ろうは抜くことができる。
抜いた後の穴は数日で閉じる。
3 ) 気管切開
舌がんでは、病気の広がりや治療を受けた影響などにより、気道が閉塞し窒息のリスクが高い状態になることがある。
また、舌全摘出術など舌を大きく切除した後は、唾液が気管に入ることで誤嚥性肺炎のリスクが高くなる。
これらの合併症を予防するために、気管に穴をあけて管を通し、確実に気道を確保する手術を行うことがある。

声が一時的に出せなくなるが、創(創部)に出血などのトラブルがなければ、声を出せる管に変更したり、病気や嚥下の状態がよくなれば管を抜くこともできる。
気管にあけた穴は、管を抜いた後 1 週間程度で閉じる。
4 ) アピアランスケア
“がん”や“がん”の治療によって、脱毛や皮膚・爪の変化などで外見が変わることがある。
外見が変わると、仕事や学校、買い物に行くなどの普段の生活を送ることが難しいと感じる人もいる。
支持療法の中でも、外見の変化によって起こるさまざまな苦痛を軽減するための支援として行われているのが、「アピアランス(外見)ケア」である。
アピアランスケアは、専門知識を持った医療者が行うこともあれば、自分や家族が適切な情報を得て行うものもある。
“がん”の治療によっておこる外見の変化には、薬物療法や放射線治療による脱毛や皮膚の変化、手術(外科治療)によってできる創などがある。
このような外見の変化によって・・・。
「自分らしくない」
「人前に出ることに消極的になる」
「病気だということが周りに分かってしまう」
このような思いを持ったり、様々な不安・心配・つらさを感じたりする人もいる。
そんな気持ちを抱いたときは、アピアランスケアを通して気持ちを楽にし、自分らしい生活や社会とのつながり、治療への意欲を保つことを目指せることに繋がる。
アピアランスケアは、性別や年齢に関わりなく、子どもから高齢者まで、“がん”や“がん”の治療によって外見が変わり、その人自身が必要だと感じたときに行う。
外見が変わっても気にならないときには、アピアランスケアにこだわる必要はない。
自分が受ける治療で起こる可能性がある外見の変化や対処方法、心配なことや不安なことなどについては、治療が始まる前に医師や看護師に相談しておくとよい。
また、がん相談支援センターでも、アピアランスケアについて相談することができる。
次回へ・・・。
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